パートナーシップ宣誓制度とは?

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1 福岡「県」でのパートナーシップ宣誓制度導入検討

2021年9月17日、福岡県が、LGBTQ+のカップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を導入する方向で検討していると発表されました。

都道府県単位では、2021年9月現在、茨城、群馬、大阪、佐賀、三重が導入しているので、福岡県がこのまま導入をすれば、6番目の導入都道府県ということになります。

2 異性カップル以外は法律上結婚できないという現状

現在の日本では、男女の異性カップルは結婚できますが、戸籍上同性同士のカップル(以下では、これを単に「同性カップル」と書きます)は結婚ができません。

法律では、どうなっているのでしょうか?

民法740条には、婚姻届の受理についての規定があります。

婚姻の届出は、その婚姻が①第七百三十一条から第七百三十七条まで及び②
前条第二項の規定③その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、受理することができない。
※丸数字と下線部は引用者によるもの。

①民法731条から737条には、近親婚や重婚など、結婚できない実質的な理由について定められています。

しかしここには「同性同士は結婚できない」という規定はありません。

②また「前条第二項の規定」=739条2項も「当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。」という形式的な手続のことしか書いておらず、ここでも「同性同士は結婚できない」という規定はありません。

③「その他の法令」は特にここでは戸籍法や戸籍法施行規則を指しますが、実はこれらにも「同性同士は結婚できない」という規定はありません。

ところが実際に戸籍上同性同士のカップルが婚姻届を役所に提出すると、「同性同士を当事者とする本件婚姻届は不適法」との理由記載がされて不受理となるのが一般的です。

このように、実は法律で同性同士の婚姻禁止について、明記はされていないものの、民法や戸籍法の解釈として、「夫婦」とは、婚姻当事者である男である夫及び女である妻を意味しており(という国会答弁があります)、それがゆえに民法・戸籍法に違反するとして現在は同性同士の婚姻はできないことになっています。

ちなみに、憲法24条1項は

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

と定めていますが、これは昔の家父長制を廃止し、結婚するかは当事者同士の意思のみで決められるということを決めたに過ぎないものです。

そのため、「両性の合意」とありますが、この定めは、同性同士の結婚を禁止したものではありませんし、政府も「憲法が同性婚を禁止している」とは述べていません。

3 婚姻制度とパートナーシップ宣誓制度のちがい

時々、パートナーシップ宣誓制度は、法律上の婚姻と誤解している方がいますが、これらは全く違うものです。

法律上の婚姻をしたカップルには、法律がたくさんの保護や利益を与えています。

カップルの一方が亡くなれば相続人として遺産相続ができます。

離婚の場面では生活費としての婚姻費用や財産分与を請求できます。

子どもを養育するにあたっては共同親権が認められます。

在留資格についていえば、日本人と外国人カップルであれば配偶者ビザで日本にいることが可能です。

また、税金でいえば「配偶者控除」を受けることもできます。

一方、パートナーシップ宣誓制度は、導入自治体において「公的に正式なカップルであることを認める」効果しかありません。

相続の権利はないので、長年同性カップルとして家族のように暮らして家を購入しても、二人の関係は法的には他人として、亡くなったパートナーの家族から家を追い出されてしまうかもしれません。

また、同性カップルに共同親権は認められていないので、子の法律上の親が亡くなると、遺されたパートナーはその子どもとの関係は他人になってしまうので、親子同然の暮らしを長年してきたとしても、離ればなれになる可能性が高いのです。

その他にも上に述べたような法律上の保護は、パートナーシップ宣誓制度にはありません。

ではなぜパートナーシップ宣誓制度があるのかといえば、公営住宅に家族としての入居が認められたり、公営病院で公的カップルとして入院患者との面会が認められたりするといった効果があること、何より自治体がLGBTQ+当事者を受容していることを公に示すことで差別を少しでも減らす効果があることが大きいとされています。

また、一部の企業はこのパートナーシップ宣誓制度をベースに、婚姻している社員にしか認められてこなかった慶弔・休暇規定を認めたり、消費者との関係では家族割やペアローンによる住宅購入等のサービス提供をしたりといった制度を導入しているところもあります。

このように、婚姻とパートナーシップ宣誓制度は全くの別物であるうえ、その法的な保護レベルも大きく異なることから、「パートナーシップ宣誓制度があれば同性カップルはOK」とは到底いえない現状にあります。

4 すべての人が生きやすくなる社会へ

都道府県単位で、パートナーシップ宣誓制度が認められることは、人口カバー率も高くなることからも、LGBTQ+当事者にとって差別解消や日常の不便の一部でも解消するという意味では、大きな意義があります。

しかし、同性婚が認められないことで、上記のような保護が受けられない当事者にとっては、今なおたくさんの壁が立ちはだかっています。

G7国で同性婚を導入していないのは日本だけですし、2019年5月にはアジア初として台湾が同性婚を導入しているなど、同性婚導入が世界的スタンダードとなりつつあります。

国内では同性婚導入を求める訴訟も各地で提起されていますし、今年は来る衆院選に向けて、各政党でも「同性婚導入に前向きかどうか」ということがトピックの一つとして採り上げるようになりました。

今後の社会を形成するのは、国民一人一人の意識です。

好きになる性に関係なく、すべての人が当たり前の「婚姻」の権利を享受できる社会が早急に実現するためには、皆さんがこの問題に着目して考えを巡らせることだと思います。

文責 弁護士 岩橋愛佳

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